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第51回 「 ロンリーワン、悲しみの青春3-サークル前編-」
3月29日執筆
前々作「ロンリーワン、悲しみの青春-大学受験編-」はこちらから。
前作「ロンリーワン、悲しみの青春2-サークル前編-」はこちらから。
2002年4月から5月までの1ヵ月は、まさに光陰矢の如く過ぎていった。
たった30日の間ではあるが、私はそれまでの18年間味わったことのないような別世界に身を投じていた。
ミキ先輩に勧誘され、有無も言わさずサークル「フレンズ」に入部させられていた私は、新歓コンパ、新歓花見会、新歓合宿
という新入生歓迎3大イベントに参加していた。
テレビゲームやインターネットのバーチャルな世界では決して体験できない若者の世界がそこにはあった。
これらの行事を通して、私はテニスサークル「フレンズ」の本当の姿を目の当たりにすることになった。
その中でもインパクトが強かったのは初のイベント「新歓コンパ」である。
新歓コンパで知ったサークル「フレンズ」の本当の姿
新歓コンパは渋谷のセンター街の奥に位置する「つぼ八」という居酒屋で行われた。
新入生の私はそこで、最初の洗礼を浴びせられた。
1年生の参加者は約40名で、2、3、4年の先輩メンバーを加えると、合計80名を超える大人数での宴が饗された。
3000円の会費で、ドリンク飲み放題コースという設定からも察することができるように、宴会の本当の目的は、
大量のアルコールを摂取する(正しくは、摂取させるだろう)ことだったのだ。
基本男子は、「お酒が飲めません」&「苦手です」は言語道断。ノンアルコールのソフトドリンクでごまかすことは許されなかった。
そして、このアルコールの効果を最大に発揮するために、この世界の常識だとわかるような仕掛けが多数用意されていた。
お題として、あるひとつのテーマを設定して、そのお題に沿ったキーワードを参加者が順に答えていくという「「山の手線ゲーム」
ピンからスタートし時計回りに言葉を言っていく。決まった言葉で指で誰かをさし、指された人から続きの言葉を言う。
順番や言葉を間違えたり、つっかえたりしたら負けという「ピンポンパンゲーム」
不慣れで術を身につけていない私は幾度となく敗れ、そのたびにゲームに参加していた先輩から、テーブルの上に乱雑に並べられて
いる誰が口をつけたものかもわからないビールやチューハイなどが注がれているグラスを提供され、それを強要された。
そう、それとは一気飲みのことだった。
私が最も危惧していたあの儀式のことだ。
勝者側から敗者の私にグラスが渡された時、もはや、「自分お酒苦手なので、飲めないです」なんて真面目に答えることが
できないような空気が充満していた。
とどめの一発の如く、
「隆が飲む〜ぞ・隆が飲む〜ぞ・隆が飲むぅ〜ぞ〜!! さ〜ん秒での〜むぞ!! ハイ!!3・2・1!!」
野球の応援歌であるかのようなこの独特なコールが、戸惑う私を追い詰めた。
このコーラスを浴びさせられれば、否定する権利など剥奪されたようなものだったのだ。
誰もが、それを注入するのを切望しているかのように、不気味な笑みでこちらの動向を窺っている。
蛇に睨まれた蛙のように、、私は彼らが求めるがまま、手にしたグラスに注がれているアルコールを無理やりに口に流した。
と、同時に、沸き上がる新たな歓声
「の〜んで飲んで飲んで、の〜んで飲んで飲んで、 の〜んで飲んで飲んで、のまのまイェイ!!(イェイ!!)」
たった、一杯のグラスを飲み干すのに、悪戦苦闘している私をあざ笑うかのように、アンコールの木霊が襲った。
ふと右を向くと、あのミキ先輩も腹の底から声を出して、周りのメンバーと一体化しているではないか。
抗う術はここにはない。
鼻をつまみ、ビールだか、チューハイだかわからない無味乾燥な液体を食道に流し終えた私に待っていたのは、
更なる試練だった。
「ところが(ところが)隆が(隆が)まだまだ(まだまだ)
飲み足りない!!(飲み足りない!!)
『あそれイッキッキ〜のキ〜、あそれイッキッキ〜のキ〜』」
森のクマさん風なコールにあわせて、先輩たちは別のグラスを素早く私に供してきたのだ。
この連鎖によって、お酒が飲める、一気をこなせる人間は、ドロップアウトするまでは(もしくは周りがもう終わりで良いと
認めてくれるまでは)、エンドレスで飲まされるこの世界のシステムを体で覚えさせられた。
アルコールなど、18年の人生で酌み交わした経験など皆無な私にとっては、2杯が限界だった。
苦痛に歪む私の表情を見て、さきほどのコーラス隊は、「こいつはもうこの辺で許してやるか」と暗黙の了解が下りたらしく、
30秒後にはターゲットは次のお題に変わっていた。
彼らは次の獲物を求めて、ゲームを再開していた。
薄れゆく意識の中で、
ミキ先輩、勧誘の時に言っていたことと違うじゃないですか!
心の中で何度もつぶやいたが、もしかしたら、他のサークルの飲み会はこれ以上の物なのかもしれないと考えたら、ぞっとした。
この正気の沙汰ではない空間から一刻も早く解放されたい思いでなんとかこの場を耐えしのいでいた。
30分後、ようやく自分達のグループのゲームが終わりを告げたところで、改めて周囲を見渡すと、新入生歓迎会の時とは違い、
20名ほどの女子が参加していることがわかった。グループによっては、女の子同士で固まっていて、ゲームには参加せずに、
ちょびちょびソフトドリンクを飲みながら、会話を交わしている席もあった。
他の席のメンバーも、最初自分達が座っていた場から離れ、色んな男女問わずに色んなメンバーに話しかけに行っている。
周りを気にしている私の様子を見て、ミキ先輩が「他の新入生のところに行っていいよ。チャンスだから」
と、解放発言をしてくれた。
「彼女を作りたい」という想いが根底にあった自分は、またとないチャンスだと思い、先ほど目の前に飛び込んできた光景の女性オンリーの
席に潜入しようかどうか悩んだが、経験値の少なすぎる私にとって、単独丸腰で女島に遠征するほどの勇気はなかった。
そういえばテツやシンヤ、ユキオたちはどう過ごしているのだろうか。
新歓コンパの会場には一緒に向かったものの、室内でクジ引きによてグループ分けしてからは、一度も顔を合わせずにいた。
彼らの姿を探して見ると、6秒後には3人揃って発見できた。
なんとおいしいことに、彼らはそれぞれ新入生の女の子3人と同じグループに座っていて、まるで合コンのように楽しそうに、
語り合っているではないか。
テツ、シンヤ、ユキオグループに入れてもらうのは、比較的簡単なことではあったが、楽しそうにしているあの空気に
途中から入りたい気がしなかったし、なによりプライドが許さなかった。
嫉妬と悔しさから、「こうなったら自分も女の子に近づいてやる」と強い衝動に駆られた私は、2つ隣の席に座っている、
小倉優子似の女の子を見つけ、思いきって足を運ぶことにした。
長髪黒髪童顔で、まさに自分好みの女性だったのだ。
幸いなことに、その小倉優子似の子の周りには、その子のトモダチだと思われるもう一人の女の子しかいなかった。
たった2杯でも、アルコールが体に充満しており、意識がくらくらしていた自分であったが、勢いに任せて彼女の傍に寄った。
2人とも、どこの学科出身ですか?少しお話をしませんか?
突拍子もなく投げかけると、
「えっ、法学部法学科ですけれども……」
「私も同じく法学部です……」
両者訝しげな眼差しで警戒するように細々と私のその問いに答えてくれたまさにその時、
2人の男性が自分の隣にずかずかとやってきて、勢い良く腰を下ろした。
「トモちゃん、お待たせ〜。いや〜飲みまくったおかげで、2、3回くらい吐いてきたよ〜」
「こいつの吐きっぷり、半端なかったよ。介抱する身にもなってくれっつーの」
新入生歓迎期間で遭遇したバーニングの勧誘部員のような、金髪で目立ちすぎるシルバーアクセサリー、
ヒップホップ系のファッションに身を包んだ二人の男性が、目の前にいる小倉優子似の彼女と、隣にいる友人らしき女性に、
まるで数年前からの仲のような口調で、話しかけていた。
そのノリに、彼女は、私に見せた社交辞令的な態度とは打って変わって、
「まじうけるんですけれど〜、ホント飲みすぎだよ、タクヤ君。」
その可憐な容姿からは想像できないようなギャル口調と軽快なノリで、彼らを歓迎していた。
なんで、こんなに可愛い子が、そんな言葉遣いを……、っていうかいつの間にこんなに仲良くなれたんだ。
彼女の見た目と内面のギャップに衝撃を受ける暇もなく、同時に集まる4人の視線。
お前誰だよ。自分らのテリトリーに入ってくるんじゃねーよ。空気読めよな。
彼らの無言の圧力が私をその場から退かした。
こうして私の短い冒険は幕を閉じ、行き場を失った私は残りの時間を酔いつぶれたふりをして畳の上で過ごした。
時刻が夜の10時を過ぎた頃、スタッフが、ラストオーダーを取りに室内を巡回している声を耳にした時、
ようやくこの会の終わりが近づいていることを理解した。
寝たふりを止め、ある程度気分も回復してきたので、体を起こし、周囲の動向を静観した。
あるグループでは、エンドレスの一気飲みゲームが続けられていて、あるグループでは、男女混合で会話を楽しんでいて、
あるグループでは、飲み会の空気には相応しくないような真剣な眼差しで語り合っているメンバーがいて、
またあるグループでは、酔いつぶれて、畳の上に寝っ転がっているメンバーとそれを介抱するメンバーに分かれている。
飲み会の縮図が見えてきたところで、この夜は終わった。
メンバーの大半が外に出てくると、部長のトオルさんから、二次会についての発表があったが、私が家路についたのは言うまでもない。
テツ、シンヤ、ユキオはどこに消えてしまったのだか、その姿は見当たらない。
二次会に行くメンバーの中にもいないところをみると、あの女の子達と親密になって、グループ同士で二次会でも行ったのだろうか。
そんな憶測を立てていると、一番最後に店から出てきた小倉優子似のあの彼女と、あんなに親しそうに話していたタクヤが肩に手を
回しながら、足早に夜のネオンへと姿を消していった。
唖然としながら二人の背中を凝視していると、傍にいた誰かが、
「あの二人、円山町に行ったみたいだぜ。きっとこれからラブホにでも行くんだな」
と、寝耳に水の発言をしてきた。
出逢って間もない二人がもうカップルになれたのか?しかもホテルにだって?
あの時の衝撃は今でも脳裏に覚えている。
ちなみに、その二人はその後一度もサークルに顔を出すことも、学内で会うこともなかったが、
このタクヤのように、「お持ち帰り」や「インスタントな関係」だけを求めて、サークルの新歓コンパなどのイベントだけ渡り歩き
をしている狩人のような男がそれなりに存在するそうだ。
初体面で、酒の力も手伝ってボルテージも最高潮に昂ぶっているこのシチュエーションは、彼らの目的を達成するためにもってこいの環境らしい。
弱肉強食だった。女の子に「学科はどこですか?」と話しかけるのがやっとな自分から見て、その光景は強烈すぎた。
一夜にして、サークルと大学の表と裏の世界を目の当たりにした私は、とぼとぼと独りで歩いて帰った。
途中何度も吐き気をもよおしたが、家の便器につくまでは、なんとか我慢した。
経験したことがない体を蝕むアルコールの威力と、刺激を通り越したショックからだった。
新歓合宿で出逢った親友
5月のGWには、新潟の湯沢に2泊3日の新歓合宿が行われた。
大学から貸し切りのバス(2台)に乗っておよそ2時間30分、車中では、この機会ではじめて出逢う面子との会話に盛り上がった。
テツ、シンヤ、ユキオはの3人組は、あの新歓コンパ以来、音信不通になってしまい、今回のこの合宿にも参加していなかった。
その後フレンズに一度も顔を覗かせることがなかった点からも、彼らは自分達の世界を見つけて旅立っていったのだろう。
こんなあっけない別れは珍しいものではなく、実際に出逢いの数はこの一ヵ月だけで相当あったのだったが、深い仲に繋がりそうな
縁には巡り合えずにいた。
学科の方でも各授業の中で多くの新入生たちと話したり、携帯番号を交換することはできたが、「コイツとは気があう」
という人間には未だ巡り合えずにいた。この点に関しては次回詳しく描きたいと思う。
はじめて新歓コンパに参加した時から、いや、厳密に言うと、あの時ミキ先輩に誘われてフレンズのブースに足を運んだ
その時から、 「自分にはこの世界は合わないのかもしれない」
と肌で感じ取っていたのだが、それでも自分はフレンズの行事には積極的に足を運んだ。
その理由は、まだ見ぬ本当の"トモダチ"と、"彼女"の存在を渇望していたからだと思う。
今回のこの企画に参加したのも、心のどこかで期待をしていたからだ。
この合宿は、自分にとって望んでいないものと、望んでいたものの両極端のカタチと、同時に遭遇することになった。
結論から言うと、望んでいないものとは、夜の地獄の飲み会だ。それも新歓コンパ、花見の時とは比ではないくらいの内容だった。
硬式テニスサークルらしく、自然に囲まれた宿泊先のコテージの庭に4面のテニスコートを使って、朝の9時から午後6時までの
長時間みっちりとテニス練習が行われた。
あの飲み会では、ノリノリではっちゃけていた先輩たちも、いざテニスコートに立って、ラケットを手にすると、別人になったように、
かっこいいスポーツマンに変身していた。さすがに先輩方はうまかった。
ソフトテニスは趣味レベルで多少自信があった自分だったが、硬式テニスを体験するのは、実はこの時がはじめてで、ソフトテニスに
求められている技術やテクニックとはまた違うものだということを体感した。
メンバーの中には私と同じように、はじめて硬式テニスをプレイする者も多かったので、先輩達が基礎からみっちり教えてくれた。
およそ8時間という練習は長かったが、中高の部活動のように、新人はボール拾いや筋肉トレーニング、素振りに徹するという型に
ハマッたプログラムではなく、先輩たちからの基礎練習が終わった後は、2面は好きに使わせてもらえたので、自由にテニスを楽しめた。
もっとも、新入生30人の中でも、上手い人間と下手な人間の差は激しく、もともと運動神経が良くなかった私は(中学時の通知表の体育
はいつも5段階中2か3だった)メンバーの中でも相当下手な部類だった。
男子はともかく、1年生の女子の中には、「テニスなんてうまれてこのかた一度もやったことがありませんし、運動全般が苦手です」と言わん
ばかりの子もおり、そんな子達に自分のかっこいい様をPRするべく、かっこつけてラリーを続けている様を見せつけようと試みたが、
前述した通り、自分は運動神経がそこまで良くなかったので、ことごとく失敗に終わった。
ビギナーの彼女たちは挙って、凄腕の先輩たちと新入生たちのラリーシーンに見とれていた。自分はお呼びでないようだ。
練習に疲れ果ててコテージに戻ると、休む間もなく夜の会が開催された。
その晩は、新歓コンパや花見の時以上に恐ろしい、先輩から新入生へ贈るアルコールの儀式が敢行された。
昼の練習時に見せてくれたさわやかで優しかった先輩方の顔が豹変し、あの時の再来のようなハイテンション。
「みんな、お疲れ〜〜〜〜〜今宵は存分、飲んで、食べて盛り上がってくれぃ!!」
6つのグループに分かれ、部長の挨拶とともに、阿鼻叫喚の2時間がスタートを切った。
開始15分、例の如く山手線ゲームに敗れ、ビールのジョッキを1杯飲まされたとたんに体は拒否反応から吐き気をもよおし、
私はトイレへと急いだ。あまりにも早いドロップアウトだった。
しかしながら、トイレには先客がすでに3人ほどおり、2つあった洋式トイレの扉は固く閉ざされており、中から「うぇ〜〜〜〜〜〜」
という断末魔とともに降り注ぐ液体の生々しい効果音が聴こえてきた。
やられたのは私だけではなかったのだ。
洗面台に目をやると、青ざめた顔の男子がうつむきながらその場に立ち尽くしていた。
大丈夫ですか?
正直、自分も今すぐにでも戻しそうだったのだが、目の前で苦しそうにしているその男子を見て、声を掛けずにはいられなかった。
「大丈夫です。もう吐き終わったんで」
振り向いた横顔は顔面蒼白だったが、私が入ってくる前からしばらく休んでいたようで、次第に生気が戻っていった。
「それより、どうぞ。俺はもう大丈夫なので。そっちの二つは今使われているので」
その男子は、洋式トイレが塞がれているのと、今にも吐きそうな私の様態を察知し、洗面所を譲ってくれた。
私が事を終えるまでも、その男子は優しく背中をさすってくれていた。
ようやく落ち着いて思わずその場にしゃがんだ時も、まだ傍にいてくれて、
「大丈夫?いや〜、あの飲ませっぷりはホントキツイよね。俺はジョッキで6杯飲まされましたよ。あの飲ませコールは極悪ですよね」
ジョッキ1杯の半分しか消費できなかった自分に比べたらなんて酒に強いんだろうなんて、感心したが、それよりもこんな
シチュエーションで初体面を交わした男に優しくしてくれるその心遣いが嬉しかった。
これがアキラとの出逢いだった。忘れたくても忘れられない出逢いの場だった。
この一ヵ月だけで40人くらいの新入生と対面してきたが、この男子とは第一印象から自分に近いものを感じた。
同時にそんな思いを彼もしていたらしく、気分が多少良くなってきた頃合いを見計らった彼は、
「よかったら俺の部屋にきて話さない?あの場に戻っても地獄が待っているだけだし、あっ俺の名前はアキラです。」
便所の中で自己紹介とは一風変わった光景だった。私も、彼と同感だったので、颯爽と彼の部屋へと向かった。
全部で20人の新入生男子の部屋は、4部屋に分かれ、1部屋につき5人が同室で床に臥すように部長から指示されて
いたのだが、私とアキラは異なる部屋だった。また、向かってくる時のバスも別々で、一日を通して顔を合わせることがあっても、
面と向かって話す機会がなかったのだ。
私はアキラに先に部屋に行ってもらい、タオルを取りに、自分の部屋の入口へと戻ったのだが、鍵がかかっていて開かない。
鍵は内側からしかかけられないので、誰かが中にいるわけなのだが、どうして鍵をロックする必要があるのだろう。
腑に落ちないまま、諦めて、2つ先にあるアキラの部屋の扉へと向かったのだが、その答えは合宿の最後の日にわかった。
アキラの部屋の中へ入ると、案の定誰もおらず、籠の中から開放された鳥のように、リラックスして話すことができた。
彼と自己紹介を交わしていくうちに、
彼が自分と同じ群馬県出身であるということ。
自分が住んでいる最寄駅から2つ離れた駅の近くに一人暮らしをしているということ。
学科は2部なので、トモダチが誰ひとりおらずに、トモダチを作るために、フレンズに入った。
ことがわかった。共通点が多かったことと、話している時のフィーリングがとても心地よかった点からも、アキラとは今までになかった
ような親近感を覚えた。
別の場所では狂喜乱舞と地獄絵図が繰り広げられている最中、自分達はこっそりこうして語り合っている。
二人だけの秘密の共有を交わすことができた点からも、親密になるのにそう時間はかからなかった。
これが男女の逢引だったらどれだけ興奮することだろうと、妄想を働かせたりもしたのだが、事実は小説よりも奇なりで、
実は閉ざされていたあの部屋の中で、イサオとミユキという二人の新入生が毛布をかぶり、いちゃついていたという話を
最終日に他の部員から聴かされた。本人たちが話していたとのことなので、事実らしい。
自分が想像していたシチュエーションが、まさに別の人間たちが、ごく近くで遂行している最中だったとは、全く驚かされた。
「うぅぅ〜〜きめぇ〜〜〜〜〜〜〜」
会話をはじめて20分くらい経った時、突然ドアが開き、自分たちと同じように、会場からドロップアウトして、バタンキューしにきた
新入生のアキトシがその場に崩れ落ちた。彼は布団も敷かないまま畳の上で爆睡してしまった。
そんな彼の寝顔を時より目にしながら、お互いの話に盛り上がった。
こうして2泊3日の合宿は瞬く間に過ぎ、皮肉にも2日に渡った地獄の飲み会のおかげで、大学1年を共に過ごすことになるアキラ
と巡り合うことができたのだ。
学科編へと続く
※ 物語は、管理人の実体験に基づいた実話ですが、ここに登場する人物や団体機関の名称は仮名です。
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