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第50回 「 ロンリーワン、悲しみの青春2-大学入学編-」
3月21日執筆
前作「ロンリーワン、悲しみの青春-大学受験編-」はこちらから。
人は誰しも胸の奥に封印している秘密を持ち、決して誰にも明かすことのない過去がある。
私にとって、忘却することのできない暗黒の時代は、4年という歳月を過ごした大学生活でした。
あれから8年。齢25を超えた今でも、"あの頃"から精神の時計は止まったまま、当時の光景がフラッシュバックします。
もしもあの時、別の選択肢を選んでいたら……
頭の中で何百回、何千回とこのフレーズを、後悔と自責の念を繰り返したことでしょうか。
前作からの続きで、全ての始まりである新天地での一歩から綴って行きたいと思います。
全てが新鮮な東京の独り暮らし
東京の生活は、田舎出身で経験の浅い私にとって、見るもの為すこと全てが新鮮で、刺激的なものだった。
私が独り暮らしをすることになった街は、家から徒歩10分圏内に、ゲームセンター、ゲームショップ、大型書店、大型スーパー、
病院、家電量販店、居酒屋、100円ショップ、ドラッグストアなど、生活するのに全く困らない店舗・施設が充実していた。
駅から50mほどの場所には、私にとって、この街のシンボルとも捉えられていた丸井という大型デパートが聳えており、
地元町とのあまりにものギャップに、同じ日本であるとは思えないような興奮を覚えた。
なにしろ、地元では、ビルもデパートも皆無。8階建ての住居用マンションが地域一の高さ。
何処に行くのにも、車か自転車が必要不可欠で、書店やゲームセンターなど一店もないし、唯一のデパートと言ったら、
隣町にあるイトーヨーカドーで、車でも30分ほどの距離を要するものだった。
私にとっては、この新天地は、自分の物欲を満たしてくれる理想郷のような場所だった。
それに、どんなに遅くまで部屋でゲームをしていても、注意されることもなければ、自分の思うように行動を選べる。
金さえあれば何でも可能にしてくれる東京の魅力、そしていよいよ始まる大学生活への期待でなかなか寝付けなかった。
いよいよ訪れた入学式
4月2日入学式。
式は大学の講堂の中で行われたが、左を見ても右を見ても全身スーツを身に纏った新入生達ばかりで、小・中・高と、
進学の度に必ず顔なじみや友人が同席していた入学式とは異質なものだった。
出席者の全体の3割くらいが髪の毛を茶髪に染めていて、客観的に見ても「いよいよ大学が始まるんだな」と感じさせられた。
見知らぬ人間の集合体の中で、私は生まれ変わって伸び伸びとスタートを切れるような気分で、胸が昂揚した。
いわゆる"大学デビュー"というものに便乗できると思ってたからだ。
式が後半に移行する前に、休憩時間が設けられたので、私はとっさにあの言葉を思い出した。
「大学という場所は、最初が肝心だから、どんどん自分から声をかけて、友人を作ったほうが良い」
上京する前に、恩師や親戚から異口同音にこの言葉を聴かされていた。
自分と5cmくらいしか距離が離れておらず、ほとんどの人間が初対面というチャンス。
傍から見ても、不自然な所作には見えないだろう。
勢いも手伝って、隣の席に座っている、女性に話しかけてみた。
あの、出身はどちらですか?
自分から見知らぬ相手に話しかけるのには、それなりに勇気が要ったが、色んな人と関わりたい好奇心から、すぐに行動に移せた。
周りを見渡せば、隣席同士で話し合っている者もぼちぼちいたし、人目を気にせずに済み、誰も自分のことを知らない開放感が強かった。
話しかけたその女性は、奇遇にも同じ群馬出身で、独り暮らしを始めた場所も、私の住まいの最寄駅から数駅先であったので、
運命的な出逢いを予感させられたが、結果的に言えば、この女性とは、この時きりで二度と顔を合わせることはなかった。
新入生だけで4000名近くの学生が集まっているのが、大学というものであって、出逢いの可能性と、一歩踏み出す勇気の大切さを
かみしめた私は、いよいよ始まる本格的な大学生活に向けて、気合は十分だった。
さぁ、いよいよ大学生活が幕を開けるぞ。
オリエンテーション、そして初めてできたトモダチ
入学式後、次に大学に足を運んだのは、オリエンテーションのためだった。
このオリエンテーションというものは、自分が所属する学科別に、演習(ゼミ)制度、や授業のシステムの説明など、これから4年間
の大学生活で必要な大学の過ごし方みたいなものを教員から説明してもらうための機会だった。
200名くらいの学科生全員と思われる人数が出席していた。
細かい説明は聞き流していて、このメンバーの中でどんな人と友達になって、どんな学生生活を送ることになるのか空想に耽っていた。
私は一番後ろの席に座っていたので、どんな雰囲気の同級生が揃っているのかをよく見渡せたが、事前情報の通り、
この学科の学生層は、女性6、男性4くらいの割合で、第一印象的には真面目そうな学生が多いように見えた。
特に男性の黒髪率はかなり高いものだったし、大学四年間を通しても、黒髪の学生の方が圧倒的に多かった。
このオリエンテーションに参加したことで、私にとって、はじめての"トモダチ"ができた。
ノブとトシという二人の男の子で、オリエンテーションで隣の席に座っていた学生だった。
トシからメモを取るのに、私に「鉛筆を貸してくれませんか」とお願いしてきたのがきっかけで、それからは、待ってましたとばかりに、
どちらからでもなく、「ところで、出身はどこですか?」というように、自然に会話の流れが進んで行き、トシが「東京の蒲田です」と
答えた時に、たまたま傍にいて話を聴いていたノブが会話に入ってきて「自分は川崎です。近いですね!」という具合で、知り合った。
恐らくここにいる多くの人間が、「トモダチが欲しい」という共通の思いがあっただろうし、最初のきっかけは、学籍番号が近いとか、
席が近いとかがきっかけで、トモダチを作るケースが一般的だったと思う。
そして、誰も共通の話題を見出して、一刻も早くトモダチを作りたかった様子が安易に推察できた。
トシの外見は、ミスターチルドレンの桜井和寿みたいなイケメンで、いつもはバンド活動やコンビニのバイトに精を出している日々を
送っていると話してくれた。
高校時代には、生徒会長を務めていて、生まれ育ってきた環境も、生き方も、自分とは全く異なるものだった。
推薦入試で入学したという点、「ハンター×ハンター」という漫画の愛読者という点が私と共通するもので、オリエンテーションが
終わった後はその会話に集中した。
初めて話した時の印象は、とってもおっとりとしていて、面倒見のいいお兄さん的な雰囲気を醸し出していた。
もっとも2週間後には、彼がその時、猫をかぶっていて、良い人を演じていと豪語されることになるのだが……。
トシは学科の中では珍しく髪の毛を染めていたのと、帰り際にタバコを吸っていた様をみて、 私は軽いカルチャーショックを
受けたのを覚えている。
当時の私の中では、髪の毛を染めていて、タバコを吸っている=不良というような固定観念があり、
「こういう人とこの先付き合って良いのだろう か」という不安が芽生えたし、その動揺にトシも気づいたらしく、
はにかんだ横顔で、「タバコ吸うような人には見えなかった?」と遠慮がちに訊ねてきた。
私は、心ではそう思っているが、相手を傷つけないようにどう返答したら良いか分からずに、「ええ、まぁ」みたいな曖昧な
返事でしか対応できなかったのを覚えている。トシに真面目すぎる男という印象を与えてしまっただろうか。
出逢って早々、私のナイーブな部分が顔を出してしまっていた。初体面はなるべく素の自分を出さないよう謙遜していたのが。
一方のノブは、いわゆる真面目系。外見は、当時笑っていいともに出演していた「ミスターマッスル」にそっくりなところから、
ほどなくして「マッスル」という愛称が命名された。
ファッションにも無頓着で、ケミカルウォッシュジーパンとダークなネルシャツを着こなしており、この学科の大多数の男子に
共通するようなスタイルだった。
マッスルは、ゲームや漫画、小説などが大好きで、一般入試で第一希望のC大学文学部文学科を、第二希望にN大学文理学部
国文学科を受験するも、第三希望で滑り止めで受けたこの大学しか合格することができずに進学してきたということだった。
どちらかというとマッスルは、私と嗜好も近いような印象を受け、実際に大学四年間で二人で遊んだり、授業を受けたりする機会が
多かったのだが、何かこう物足りないものを感じていた。
それは、第一印象から、「この人とは親友になれる」というような感覚を受けなかったからだ。
当時の自分は、直感で物事を判断しているところがかなりあり、オリエンテーションが終わった後も、地元から通っている二人は
「この後地元のトモダチと会うから」「バイトがあるんだ」というような定番の理由で、颯爽と去っていた様子からも、入学早々何とも
言えない虚無感みたいな感情を覚えたのを記憶している。
新入生歓迎会、そして、入部へ
大学のオリエンテーションの後、授業開始までの間に、「新入生歓迎期間」というものがあったのだが、私は、
「ついにこの瞬間が来た!」
というような一日千秋の思いだった。
この新入生歓迎期間というのは、簡単に言うと、サークルや部活の部員が、新入生を勧誘するために設けられたPR期間である。
正門をくぐった瞬間、右を見ても左を向いても、サークルの宣伝が描いてある大きな看板だらけで、中央広場に進むと、
チアダンス衣装を着たチアリーディング部が、パフォーマンスをしていたり、剣道袴を纏った剣道部員や柔道着を身に付けた柔道部員
らしき人がチラシを持って、他の新入生に声をかけていたり、「バスケットサークル”ダンクス”の説明会にぜひお越しください!会場は〜」
というように声を大にして宣伝している部員がいたり、明らかに入学式やオリエンテーションとは雰囲気が異なり、「大学の本来の姿」
と映るような光景がそこにはあった。
私は大学入学以前から、インターネットでチェックしていた硬式テニスサークル「ウイング」のブースに向かったが、いざ部屋の前に
辿り着いたら、俄かに戸惑いの気持ちが生じて入れずにいた。その時の原因は正確には記憶していないが、恐らく、外窓から中を
覗いた時に、他の新入生が誰一人いなかったのと、サークルの部員同士が楽しそうに談笑している様を目にして、気後れしてしまった
のだと思う。
「『隆くんが来るのを当日楽しみにしている』ってレスしてくれた人はあの男の人だろうか」なんて想像を巡らせながら、
気持ちが移ろいでしまった罪悪感みたいな思いから、その場を後にしていた。
サークルは他にもあるし、ウイングは自分の想像していた世界とは違っていたんだと、第一印象で判断してしまい、踵を返した
当時の自分だったが、後になって「せめて説明だけでも聴きに行けば、また違う可能性があったのに」と後悔したが、後の祭りだった。
ウイングの三つ隣にあった、軟式テニスサークル「バーニング」の部室を通った時、勧誘の部員と思われるような金髪の男性から、
「ちょっと、そこの君、背が高くてかっこいいね。うちはテニサーなんだけれどさぁ、興味ない?」
と、ノリノリな口調で話しかけられた。
ちょうど、ウイングを断念して、さて次はどこに向かおうかと考えを廻らせようとしたまさにそのタイミングだったし、元来、軟式テニスは
経験があり、それなりの自信があったのと、はじめて自分に声を掛けてもらえた喜びから、バーニングのブースに踏み入れた。
バーニングには10名前後の新入生が説明を受けに来ており、自分に声を掛けてくれたあの男性がこのサークルの説明をしてくれた。
「名前、たかすぃ〜でいいよね?マジで入ってくれたら嬉しいんだけど!」
その軽いノリに多少引き気味になってしまったのと、バーニングのパンフレットに明示されている「飲み会ガンガンあります」という
サークルのうたい文句に気が萎えてしまった自分は、このまま引き返そうとしたのだが、なんせ熱い口調で勧誘を進めてくるこの
先輩の熱意に押されて、結局入部のサインを書くことになった。
しつこいナンパに負けてついていく女性の気持ちが少しだけわかったような錯覚を覚えた。
もっとも、入部の記名はしたものの、以後一度も足を運ぶことはなかったのだが。
いわゆる幽霊部員やサークルの掛け持ちをしている人間の中でも、籍だけは置いてあるが、全く通っていないというケースが多い
のだと、後で知った。
ブースを出た後も、「ウイングは第一希望だったし、雰囲気的にも、バーニングのメンバーよりも真面目そうな人がいたから、自分には
ウイングの方が合っていたのかもしれない」と後悔の念が襲ってきたりもしたが、一度部屋の目の前まで行って、ためらったのもあって、
再びウイングを訪れる選択は選ばなかった。
しかし、このまま帰るのは寂しかったので、キャンパス内を周遊してみたが、自分の期待通りに、勧誘をしてくる先輩はいなかった。
一人でサークルのブースに足を運ぶのには、流石に躊躇していたので、私は、バーニングと同じように、部員の誰かが誘ってくれるのを
待ち望んでいたのだ。
どうして誰も自分に声を掛けてこないんだろう。
周りを見ればあれだけ引きとめられている新入生がいるのに。
自分は人を寄せ付けないオーラでもあるのだろうか。
疑心暗鬼になってきた頃には、すでにキャンパスを3周していた。
その時、ようやく後ろから声を掛けられたのだ。
「背負っているリュックのチャックが開いていますよ」
という女性の忠告だった。
手を回すと、確かに今まさに自分が背負っているヒステリックグラマーのリュックが半開きになっていた。
恐らく、バーニングのサークル資料をもらった時に開けて、急いで部屋を出たからそのまま閉め忘れていたのに違いない。
自分は、振り返って目を反らしてお礼を言うのがやっとだったし、自分がすごい惨めに思え、頭の中では一刻も早くこの場から
いなくなりたいという衝動でいっぱいだった。そんなわけで、逃げるように足早に正門へと近づいた時に、先ほどとは違った背の
高いNIKEのウインドブレーカーを着た女性が正面から声を掛けてきた。
「今から帰るところですか?よかったら、最後に私たちのサークルの説明会に参加してみないですか?"フレンズ"っていう
テニスサークルなのですが、きっと気に入ってくれると思います」
落ち着いた語調で説明してくれたこの女性は、後に私の先輩になる大学三年のミキ先輩という方である。
どのような意図と着眼点で私を勧誘したのかは最後まで聴けなかったが、帰り際で、しかも当初から希望していたテニスサークル
というものあって、これは自分にとって最後のチャンスだと直感で悟ったが、どうしても気になっているあの問いを投げかけていた。
あの〜、テニスサークルっていうと、やっぱり飲み会が多いと思うんですけれど、僕ものすごいお酒が弱くて、
無理やり飲まされたりしないですかねぇ?
まだ未成年だったので、お酒が飲めなくて当たり前だし、法的にも禁止されていたのだが、ネットや見聞での情報でもバーニング
でも然り、スポーツ系サークル、特にテニサーというと、飲み会で酒を飲むのは当たり前の風潮なのである。
そして例え20歳未満であっても、というこの世界の常識が、罷り通っているようだった。
先輩は、無理やり飲ませたりなんかしないし、うちのサークルは30以上ある学内のテニスサークルの中でも飲み会の回数も
少ない方だと、説明してくた。サークルによって、飲み会の頻度や、一気飲み、強制飲みの多寡などは千差万別のようであったが、
フレンズの飲み会はソフトな部類であると、説得するように説明してくれたので、私はこの先輩に従って、ブースへと誘われた。
フレンズのブースに入ると、既に20人近い新入生が設えられた長テーブルの席に腰をかけて、お互い自己紹介などを交わしていた。
室内の黒板には、「ようこそ!新入生のあなたは54人目の新入部員です」とデカデカと書いてあった。
入部の有無を聴かれる前に私はミキ先輩によって55人目に書き加えられ、同時に、部長と副部長らしき二人の男性が唐突に大声で
「一堂注目!!」
と全ての者を釘づけにさせた。
そして、
「悲しいときぃ〜〜電話が鳴らなかったときぃ〜〜、嬉しいときぃ〜〜〜隆君がフレンズに入部してくれたときぃ〜〜」
「はひふへフレンズです。ウィーアーK大フレンズです。よろしくねピヨピヨ」
「一堂、今日から俺たちの仲間に入ってくれた隆君に拍手!!」
同時に響き渡る私への拍手喝さいと、全員の私への目線が恥ずかしかったりもしたけれども、この空気、そんなに
心地悪いものではなかった。ナイーブな精神な割に、目立ちたがり屋な自分がそこにはいたからだ。
当時、流行っていた、「いつもここから」というお笑い芸人の芸風をもじった言い回しと、フレンズオリジナルのフレーズで、
新入生、部員を含めた全員が私を迎え入れてくれたのだ。
その後も6名ほど新入生が入部し、計60名くらいが新部員として加わったようであった。
宴会会場のようになっている室内では、新入生同士が、いくつかのグループに分かれて初体面の時間を過ごしていた。
私が座っていた席では、5名の男子が近くにいて、経済学部、法学部など他学部の学生たちが集まっていた。
同じ学科の学生は一人もいなかったが、中には、一浪をして入学してきた一つ年上の同級生がいたりして、一人一人の会話が
私にとって新鮮だった。ここでも皆埼玉や千葉、都内の出身で、独り暮らしをしているのは私だけのようだった。
あいにく、この日最後まで残っていたメンバーの中に女性新入生はいなかったが、60名中25名くらいは女の子だったらしく、
これから始まりそうな出逢いに胸が躍った。
帰り道に、説明会時に近くの席にいたテツ、シンヤ、ユキオという3人の男子が、私が大学の最寄駅から数駅離れた場所に
独り暮らしをしていると告げたら「じゃあ、こうして出逢えたのも縁だし、今から3人で泊まりに行ってもいいかい?」
とノリノリで聴いてきたので、同じ思いが芽生えていた自分は、二つ返事でOKを出した。
この3人は埼玉県出身で、同じ高校出身の仲良しグループで入部したらしいが、私に興味を持ってくれたのが何よりも嬉しかった。
そして、学科で出逢ったトシやマッスルにはない親近感を覚えたのだった。
その日の夜は、野郎4人で明け方まで話が盛り上がった。
話題の中心は専ら好きな女性のタイプのトークで、当時10代前半から20代前半の男性をターゲットに、ファッションやグラビア、
恋愛特集などがてんこ盛りだった雑誌「ホットドッグプレス」を素材に(入学式前に書店で購入していた)、どの女の子が好みかとか、
ユキオが一か月前に付き合っていた彼女に浮気されて振られた生々しい話しとか、シンヤもテツも、男子高出身というのもあって、
女の子と一度もデートしたことがないとか、自分の生い立ちとは別世界の話を聴いて、興奮冷めやらなかった。
3人も自分と同じように、テニサー「フレンズ」に入部した理由は、「純粋にテニスを追求したいのではなく、彼女が欲しいから」という
至極単純な理由だったので、意気投合するのに時間は要らなかった。
その晩は、月9でキムタクとさんまが主演の「空から降る一億の星」というドラマが新スタートした日で、前々から楽しみにしていたが、
話に夢中になっていた故にすっかり忘れていて、放送終了後1時間が経ってふとその事を思い出した。
しかしながら、この新しい面子と語り合っている楽しみの方が勝っていた自分は、気にすることなく彼らとの話に耽った。
当初予定していたウイングではなく、帰り際偶然にも声を掛けられたフレンズではじめて出逢った人間が今、自分の泊まりにきている。
全てが初めてで、あまりにも急な展開だったし、正直問答無用で入部させられたのはミキ先輩にハメられたような気持ちもしないでも
なかったが、何よりもこういった出逢いを提供してくれたのに感謝していた。
夢に描いていた、大学生活がついに幕を開いたんだ。
私はこれから訪れるであろう、理想の大学生活に着々と近づいているような錯覚に陥っていた。
自分の選んだこの選択がこの先決して拭いきれることがない軌跡として刻まれるとは夢にも思わず。
サークル編へ続く
※ 物語は、管理人の実体験に基づいた実話ですが、ここに登場する人物や団体機関の名称は仮名です。