TOPページ恋愛コラム第四十回 「大学入学後に変わり果てて行く友人を追って-中編- 


第40回 「大学入学後、変わり果てて行く友人を追って-中編-」
 4月14日執筆

  
    高校卒業を機に、私もY君も、互いに別の大学に進学してからというものの、私は地元から都内に
   一人暮らしを始めたことで、環境が激変したこともあって、Y君をはじめ、高校時代の友人とは必然的に
   連絡は遠のいていきました。
    
    久しぶりにY君と再会したのはそれから2年後の夏。ようやく大学生活に適応してきて、
   私が地元に帰省したのを理由に、Y君を含んだ高校時代の級友6名と、再会したのです。


    2年ぶりに会うY君の服装は、上はユナイテッドアローズの細見シルエットなグレー系テーラドジャケットと、
   ホワイトストライプのドレスシャツを体裁よくこなしており、下はリーバイス503のブラックストレートパンツ
   とコンバースオールスターレザーでばっちりファッションを決めていました。

    風貌も、高校時代よりイケメンぶりがアップしていました。 
   齢も20を超えていたことで、従来の色気に彫りが深いワイルドさも加わっており、高校時代からのY君の
    トレードマークでもある黒髪のストレートはなおも健在で、私から見てY君のその外見からは、都内の大学に
   進出したことで、ますます男性としても人間的にも洗練されているような印象を受けました。


    ところが、カラオケに行った時、高校時代には気づくことのなかった最初の違和感に遭遇しました。

    自分の番が回ってきても、一向に歌おうとしないのです。
   大人数で行くカラオケはああいう場ですので、ノリを第一にするためにも、他の級友たちも異口同音に
   「アニソンでもいいから歌おうぜ〜」「デュエットしようよ!!」なんて熱く催促しているのですが、
   Y君は涼しい顔で「俺はカラオケ好きじゃないから、順番抜かしていいよ」と、あっさりかわすのでした。

    実はY君とプライベートで遊ぶのは大学入学後のこの日が初めてで、まさかY君がカラオケが好きでは
   ないなんてその外見と高校時代からの爽やかなキャラクターからは予想だにしなかったので、意外の
   一言でした。その点に関して、むやみには触れなかったものの、俄かにY君の他の一面を知りたくなりました。

    その後、カラオケでは全員で盛り上がるのには欠けるので、Y君の立場も慮って、話しが中心になる
   飲み屋に移動しました。
    お決まりの話題の一つである「大学はどう?」のテーマになったとき、カラオケの時は喜怒哀楽を表に
   出さなかったY君がみるみるうちにどんよりとした表情に変わりつつ、重い口を開いて語りはじめました。

     「大学はまぁまぁかな。これといって夢中になっていることはないけれど、家でゲームやったり、
    おやじと登山とか行ってるから楽しんでいる方かな。でも、勉強が難しすぎてさぁ、単位取るのが
    やっとだよ。ミクロとかマクロとか数学的知識が欠けてるから全然理解できないよ。経済学部は
    実質文系じゃなくて理系だね。周りも皆レベルが高い奴らばっかりで、なかなか話が合わないんだ
    よね〜。たまに学校の帰りに遊びに行く学科の男友達ばっかりで、女子とも全然縁がないよ〜。」

     淡々と話すY君の口調は、高校時代のままでしたが、その内容からは2年ぶりに再会してファッション
    センスに磨きがかかっていた点から、「かわいい彼女と甘い時間を過ごしながら、個性的な知己と
    さぞ楽しい大学生活を送っているのんだろうな」と憶測を立てていたのが、まんまと瓦解し、高校時代の
    ように華々しいスポットとはほど遠い、いたって平凡な大学生活の日々のようでした。
      
     教員免許取得のための教職教科を履修しているわけでもなく、大学の友人とオールしながら夜の
    都心の繁華街に足を運ぶこともなく、「サークルも地味な自分に似合わないから」と、端から参加する気も
    なかったようで、自宅と学校の往復の日々だったそうです。

     Y君が言うのには、「井の中の蛙」とはよく言ったもので、確かに自分は高校時代学科では上位の成績
    をキープできていたけれども、全国規模の都内の大学に進んだことで、いかに自分が無力かがわかった。
    今では当時の高校1年時の前半のように、すっかり意気阻喪してしまい、学術への関心が削がれて
    しまったようなのです。
     
      そんな彼は、当時歴史博物館へ誘ってくれた実の父と日曜日に定期的に行くハイキングが、心身ともに
    リラックスしてハツラツでき、生きている心地を実感できると話してくれました。




     その日の出来事は私にとって頭から離れないものとなり、率先して自分からはY君には連絡が出来ない
    まま、徒に時間だけが過ぎていきました。テストや受験などで、高校時代を過ごしてきた戦友的存在だった
    Y君だけに、当時のイメージから脱却できずに、「今」変わり果てて行きつつある彼を知るのに畏怖の念を
    覚えていたのかもしれません。



     そんなことで、大学3年生の11月に入り、卒業論文、進路決定など、卒業に向けて本格的に忙しくなった
    この時期に、親友のN君から、忘れもしなかったY君からの音沙汰を耳にしました。
    
     N君は大学こそ違えど、地元が近いことから、頻繁にY君に連絡を取っては、ジョギングをして共に汗を流し
    たりしているようでした。

     「隆〜、Yの様子が最近変なんだよ〜。メールしても返ってこなくなってきたし、ようやくこの間会え
    たんだけれど、あのスマイルが似合うYがどんよりとした表情だったから、こっちからは極力探りを入れ
    たりせずに様子見に徹してたら、いきなり言われたよ。『俺、死にたい』って」


      どうやらN君によると、1か月くらい前から急に連絡しても、応答がなくなってきて、心配になって、

     「何かあったん?悩みがあったら聞くよ」
     この1通のメールを送ったら、ようやくレスポンスがあり、
    「わかった。じゃあ今度一緒にジョギングに行った時にでも話すよ」


     ようやくのことで約束をこぎつけられたようでした。

     「俺、死にたい」

     高校時代あの天真爛漫なY君からは想像しがたいような弱気な発言。いつも聞き役に徹する機会が
    多く、悩める者に対して適切なアドバイスをかけるというよりもその天性のオーラで癒してきたY君の
    姿はそこにはありませんでした。
  
     死を思いつめるほどの理由は何なのか予想する前に、N君が教えてくれました。

     「どうならYはまだ進路が決まってなくって、自分が将来どの職業に合っているか全く見えないで、
    もがいているみたいよ。毎日毎日先の見えない不安に押し潰されそうになっているみたい」


     大学4年のこの時期になってもまだ進路が決まっておらず、候補さえ見い出せていない焦りと戸惑い
    といったら並々ならぬものであったことが容易く想像できました。

    高校3年生の11月といったら、Y君はセンター試験、一般入試組を出し抜いて、指定校推薦枠で合格を
   ほしいままにしていた頃です。一足先に受験戦争を終え、活路を開いて希望に胸を躍らせていましたが、
   まるで当時とは対極的な現状です。

     精神が不安定なまま、N君と会った理由も、やり場のない悶々とした想いを誰かに吐露したかったという
    点と、父親とハイキングに足を運んでいる瞬間が、嫌なことも考えずに夢中になれると過去に述べていたように、
    ジョギングで体を動かして汗をかくことで、現実逃避ならぬ気分転換を図りたかったのだと察します。
     また、N君が留年が決まっていたところからも、一歩世の中から遅れた組同士で、同じ目線で「彼になら話せる」
    という安心感があったのかもしれません。

    実際、Y君のその背景には私が想像できないような、現実と深い難題がそびえ立っているのかもしれません。

     これを聞いて、かつての高校時代共に苦楽を乗り越えてきた私としては、もはや黙って過ごしているわけ
    にはいきませんでした。自分が連絡することで、Y君の悩みの根本を解決できる自信があったわけでは
    ありませんでしたが、理屈ぬきで心配だったのと、自分探しのきっかけを与えられればと考えていました。
    一回だけでも「彼と通じて話したい」という思いが全ての原動力に繋がりました。

    しかし、私が何度メールや電話で連絡を顧みようと、彼は無言を貫きとおしたのです。
   常にY君の安否は気になってはいましたが、反応がないことと、卒論の追い込みと、卒業後に進学を
   希望する学校の入試が間近に控えていたため、同時進行でY君に連絡を試みていたN君に希望を託し、
   新しい情報を待つ姿勢に入っていました。

    ようやくひと段落がついたころには、季節は春に移り変わっていて、卒業シーズンまっさかりの時期に突入
   してしまいましたが、依然としてN君の方から真新しい情報は入ってこなく、稀に連絡が取れた時に入手
   出来たのは卒業式の日程と決まらぬ進路の2点のみでした。

    これ以上Y君の出方を窺っていたら、進路も変わってしまうことで、ますます距離は開いてしまうだろう。
   せめて大学卒業までには、彼に会って話をしたいと、結論を急いだ私とN君は、大胆な行動に移りました。

    偶然にもY君の卒業式の日、私もN君も用事が何もなかったので、予め合流し、車でY君の自宅へと
   向かったのです。ぬきうちで、彼の家に訪問し、勢いで会うような流れにこぎつけようとする目論見です。
    15時頃にY君の自宅の前に到着したので、卒業式が終わってそのまま帰ってていれば、Y君は今まさに
   自宅にいる計算です。

    さすがにN君は、「今日は卒業式だから、大学の友人と都内で最後の時間を過ごしたり、謝恩会とかで、
   夜遅くまで帰ってこないよ」
と、最初から諦めモードで向かっていたようですが、私の中では野生の勘、
   確信に近い思いがありました。

   「Y君は必ず家にいる」

    卒業式は大学生活最後の節目なので、このタイミングでY君に会えることで、私もN君もY君も、わだかまり
   を少しでも晴らして、次なるステップへ進めればと、勝手に考えていたのでした。
   
    この後の展開から2年後までは最終編にて一挙にまとめたいと思います。

  後編に続く
  

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