TOPページ恋愛コラム第三十六回 「本気で死を選んだその先には-片思いから壊れていく心-最終編」 

                                                                   1月1日 21時30分執筆

   第三十六回 「本気で死を選んだその先には-片思いから壊れていく心-最終編-」 

      
     出口の見えない永久の闇を徘徊していました。
   
   
 あの一件を境に、私の中から「情熱」とか「夢」とか「希望」「愛」という言葉は
    どこかに消え去っていました。

    人との接触を拒み、独りになった自分には笑顔なんて幻は無縁の世界に足を運んでいたのです。
    彼女と出会ってから10ヶ月が経ち、季節は冬へと移り変わっていました。
    比例するかのように私の心にも永遠の冬が到来し、完全に自分らしさを失っていくのです。

    「隆〜、忘年会のシーズンだから、また例のメンバーで集まろうよ!」
    「お前最近のり悪いな」
    「顔暗いよ。何かつらいことあったん?」

    

    多くの人々が私の心のドアをノックしてきましたが、何人たりも受け付けない冷めた自分。
    今の自分では今を生きているみんなに会わせる顔がない。
    気がつけば私はこの世界にたった独り、孤立いました。

    クリスマス、新年の到来。
    街に出れば、周りは幸せそうで希望に満ち溢れているカップルや若者ばかり。
    アルバイト先のお客さんや同僚、大学の友人に会っても壊れた感情でしか物事を感知できない
    自分をもはやどうすることも出来ませんでした。

    世の中で生きていけるのは好まれるのは危険な香りがあって、愛情深い人間よりも女遊びをするような
    器用な男なんだ。そう、自分とは正反対のようなタイプ。

    私は過去の呪縛から逸脱することが出来ませんでした。
    自己卑下の自己暗示を常に自分にかけていくうちに、悪魔のようなもう一人の自分が出現するのを
    ただ黙って受け入れていきました。

    結局浮気をするような男性が女にとって魅力的なんだ。
    不器用で駆け引きが出来ないような駄目人間は恋愛する資格すらない。
    こんな想いにさせたのは誰だ、あいつのせいじゃないか!
    俺はこんなにも彼女のことを想っていたのがアホみたいじゃないか!

    
    時間さえあれば自分で自分を苛めて、かと思えばそんな自分を苦しめる矛先を彼女に設定し、
    病んだ心はブレーキが壊れて止められず、負の感情の連鎖が続く中愛憎へと変わっていったのです。 


    「思」に角が生えて「鬼」になっていた。


    彼女が憎い。
    こんな魅力がない自分を殺して世の中で勝ち組のモテる人間のような器用な男になりたい。
    もう大丈夫だ→やっぱり忘れられない→戻るの繰り返しで生きる気力をどんどん失っていきました。


    誰にも開けることの出来ない自分の殻に閉じ篭った私は、夜の街に救いを求めていました。
    
    今の自分を誰にも見られたくない。親にも親友にも冷静に客観視しているもう一人の自分にも。
    大学もさぼりがちになり、夜遅くまでゲームセンターや夜の繁華街に居場所を探しては、全てを
    無に還そうとしている自分がいました。

    でも、私はそんな自分を認めることも許すことも出来ないのに、理想の人間に生まれ変わることが
    どうしても出来ませんでした。

    歌舞伎町に足を運んで風俗店に癒しを求めようとしても、もう一人の自分が歯止めをかけてしまう。
    どんなに夜のゲームセンターや漫画喫茶に自分だけの場所を作ろうとしても、虚しさと意味のない
    時間しかない。私は家に帰らざるを得なかったのです。

    苦しくて、切なくて寂しくて、私はいつしか自分でもどうしようもない苦しみを第三者に救いを
    求めるようになっていました。
    バイトの後輩の女の子を誘って出掛けても、面影を重ねられず心の隙間は埋められませんでした。
    赤羽の駅前広場や渋谷のハチ公前でただ人の流れを眺め続けることも多々ありました。
    うつむき加減の顔。幸せそうな笑顔。しかめっ面、色々あったけどみんな日々を精一杯生きている。

    それなのに自分は無力だ……

    助けて……。


    私は寂しくて孤独でどうすることも出来なくて、自分に声をかけて導いてくれる誰かを渇望していたのです。
    しかし、幾度街に足を運んでも、そのような人間に出会うことはありませんでした。
    
    私の胸の奥底にあった1%の希望すら叶われることはなかった。

  

    人生ってなんてつまらないんだ。
    世の中駄目な奴は何をやっても駄目なんだよな。


    私の口癖でした。
    他者との距離はますます開いていって、自分を殺し念じ続ける日々。そんな生活が数ヶ月続いたある時、
    私はもう考える事にも、いつも顔を合わす大学の友人に平然を装うのにも疲れ果てた自分は無意識的に
    「死の世界」へと救いを投げかけはじめたのです。

    もう考え苦しむだけの日々に疲れ果てたよ。
    自分なんて生きる価値ないし、この先何もいいことなんてないんだ。
    ただの片思いでこんなに苦しむ自分は弱すぎるから、これから生きていけるわけがない。

    消えてなくなってしまいたい……




    〜再生〜

    
    ある日の夜、私は自分の部屋の鏡の前に立ち、ハサミを片手に取って全てに終止符を打とうと
    していました。リストカット、ことの重大さを知っていましたが、もはや冷静な自分を失った今、
    死こそが全ての救いだと信じて止まなかったのです。

    生気を無くしてしまって、亡霊のような血の通っていない痩けた顔をしている自分。
    鬼のような形相で、鏡に映るもう一人の自分を睨み付ける変わり果てた様。
    そんな自分から逃げるかのように意を決して、先端を左手首に突き刺そうとしても、
    まだそんな自分を抑制しているもう一人の自分がいました。

    忘れかけていた自分。もう完全にいなくなったのではなかったのか。

     
    私には逝けませんでした。
    結局自分で自分を殺すことすらも許されなかったのです。
    私は全てを抱えたままこの世界で生き続ける他なかったのです。


    そしてあの晩、全ての転機が訪れたのです。


    その夜は久しぶりに兼ねてからの親友とディナーを迎えていました。
    本来ならば誰にも会うつもりはなかったのですが、どうしようもない孤独、やり場のない思いを
    抱えた自分は、心の何処かで彼にこそ本当の自分を分かって欲しいと切望していたのです。

    外食をしていたのですが、自分の注文がテーブルに揃った時、妙な違和感を感じました。
    目の前の食膳を見据えた瞬間、吐き気が襲ってきて、血の気が一気にスーっと引いていき、
    心臓が恐ろしいほどに圧迫されて呼吸困難に陥ったのです。

    もはや食べることどころか話すことすらままならない状況でした。
    その異常さを察知した友人は、食べ物に手をつけるのをやめて、すぐさま私を車で自宅まで
    運んでくれました。

    私は脂汗と、今までにない苦痛でいっぱいっぱいで、動くことすら出来ませんでした。
    そして死が鮮明に迫ってくる恐怖で頭が支配され、なぜかこれまでの20年間にわたった
    私の半生が走馬灯のように流れはじめたのです。

    このまま悶え苦しんで死ぬ。

    私は咄嗟にそう悟りました。
    待ち望んでいた展開が手を加えずともやってきた。
    これで楽になれるはず……でした。

 
    苦しい。助けて。生きたいよ!死にたくないよ!

    刹那な時間の中ではじめて込み上げてきた「生への渇望」でした。
    苦しくて苦しくて、全体を蝕まれて身動きも取れなくて、極限状態に立たされていかに
    自分が生きることを蔑ろにしているのか突きつけられたのです。

    その後、私は両親によって緊急外来に連れていかれ、すぐに診察を受けた結果、
    重度の精神疲弊である旨を伝えられました。
    具体的な病名は告げれずに、精神安定剤を処方されて、その場を後にしました。

    数日後、私の体は正常になり、日常生活を送るのに支障がなくなりましたが、
    医師から渡された安定剤は使いませんでした。
    母親も友人も心から心配してくれたその姿を目にした時、はじめて気づいたのです。

    自分は死ぬために生きているのではない。
    誰かに生かされているのだ。

 
    と。

    人間落ちるところまで落ちたら後は這い上がる一方だといいますが、
    まさに私が奈落の底から脱出する大きなターニングポイントだったと覚えております。
    
    それからの自分は変わりました。いや、ようやく自分の生きる礎を発見したと言い換えたほうが
    良いのかもしれません。

    自身のサイトで悩み相談やコラムを書き始めたのもこの時からです。
    もうこんな苦しみは自分以外の第三者には味わわせたくない。
    こんな自分の体験が誰かのために生かされるのならば、これまでの全てに意味があったと思えるから。

    これまで自分を塞ぐことばかりいた私は、誰かのために、誰かに必要とされるために
    生きる道を選んだのです。それがいかに楽で意義のあることかすぐに分かりました。
    逆境を乗り越えたなんてかっこいいものではありません。心が強くなったわけでもありません。

    今の私は出会ってきたみなさんの「ありがとう」が救ってくれたのです。

    
    早いものであの体験から3年が経ちました。
    今、私の周りにはかけがえのない大切な存在がたくさんあります。
    あの出来事を通じて、私は嫌なくらい孤独と向き合って、精神崩壊寸前の恐怖も味わってきました。

    今、私の傍には大切な女性がいます。
    このサイトを通じて、自分と似た境遇に置かれていた彼女と出会ったのはおよそ2年前でした。
    人のために生きることがいかに素晴らしくて自分らしく生きると尊さを教えてくれたのも彼女の存在が
    あったからです。きっと彼女自身もこのコラムを読んで、何かを感じ取ってくれているでしょう。

    片思いだった女性の存在は未だに完全には拭いきれていないと思います。
    忘れることなんて出来ない、忘れる必要もない。
    因果応報自分が今生きているのは過去の積み重ねなのだから。
    過去を受け入れて、未来へ進む勇気があったからこそ、この体験談を語れたのだと思います。

    今だからこそ強く言えること、
    自分だけが世の中で一番悲劇的な存在で、生きる価値もないし、夢も希望もなくなった時、
    視野を外に向けて誰かの喜ぶことを選んでみてください。
    誰かを笑わしたり、意外性を演出して驚かしたり喜ばしたりするのはとても面白いものです。

    すぐに結果は出ないかもしれません。
    人に冷たい目で見られたり、信じていた人に裏切られたりすることもあるでしょう。
    でも、自分らしさを忘れずに、弱き自分を認めてあげられれば、必ず傍にいてくれる人間がいます。
    自分の居場所も求める人間も案外傍であなたを待っているのです。

    特別なことは必要ありません。
    私もキレイ事ではないですが、昔の彼女に対して「ありがとう」と言ってあげられる自分がいます。
    
    過去があるから今、そして未来がある。
    
    これまで出会った全てのみなさんに支えられて、私は今を生きています。

    終
  

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