TOPページ恋愛コラム第三十四回 「本気で死を選んだその先には-片思いから壊れていく心-中編」 

                                                                   12月29日 23時45分執筆

   第三十四回 「本気で死を選んだその先には-片思いから壊れていく心-中編」 

      
      魂のカタルシス。
    
    私は彼女に自分の素直な気持ちを告げました。
    いつかこんな日がやってくるとは思っていましたが、私の心は解っていたのです。
    
    ついに言ってしまった。

    たった一日で自分の中の世界観が180度回転して、ステップアップしながら目的地を
    目指す道のりが、突然の突風によって一瞬にしてゴールへと運ばれたような流れです。
    もはや段取りを積み重ねる余裕などありませんでした。

    私が先輩の一言で全ての判断基準を見失ってしまったように、突然のその言葉に
    彼女は混乱を隠せないようでした。

    かなり意外だよ!本当に言っているの?っていうかそんな風に思ってくれていたなんて知らなかったよ。

    彼女が本音を話すことによって、私の口からも同じように予想外な発言が待っていようとは、
    自分のことをそのように捉えていたとは夢にも思っていなかったようです。
    
    私が彼女を好きになってから守り続けてきた想いを吐露することで、先ほどまであった彼女への
    フラストレーションや猜疑心は、スーーッとひいていくのが自分でもわかりました。

    言えたぞ!!
   
    彼女が彼氏がいようと、先輩と密に連絡をしていようと、そんなことは些事に過ぎなくなるほど
    私の心は激昂していました。
    おそらく私の中で、包み隠して自分が言いたかった切な想いを告げられた行動と、
    全てを聞いた上で、自分のほうが彼女のよき理解者としてふさわしいと認識した自信で
    心の暗雲が吹き飛んでいったのだと思います。

    彼女はしばらく考えこんだ後、

    本当に意外だったので、混乱している。まだお互いのことを知っていないし、正直早いよ。
    もっと遊んだりしてみないと……。


    YESともNoとも言えぬ率直な返答をくれて、私の中には「告白成功」「玉砕」という形よりも、
    告白できた気持ちよさで、小躍りしたい気分でした。
    そして彼女の言葉の中には可能性が込められていると受け取って、先ほどまで周章狼狽
    していた自分が嘘のように、未来への興奮と彼女への感謝の念で胸がいっぱいになりました。

    これからだ。まだ大丈夫。自分を知ってもらえばきっとうまくいくはずだ。正直に言ってよかった。

    それがかりそめで、本質から目を逸らして都合の良い風に解釈することで、本心を抑圧して
    いるもう一人の自分を見てみぬふりを続けながら……


    お互い開襟をしたことで、以前よりも増して電話で話したり二人で遊ぶ機会は増えていき
    ました。そしてこれまで話したことがなかったお互いの私生活や将来の夢、人間関係の
    悩みなども語らうようになり、心の距離は日を重ねる毎に近づいていくように感じていました。
    彼女と会うたびに、自分の中の気持ちも強くなっていって、同時に「早く自分だけの彼女になって
    ほしい願望」がグングン芽生えていくのを止められませんでした。
    
    そんな関係が二ヶ月も続いた時、彼女と6回目のドライブの最中に、ついに向き合わなければ
    ならない現実を再認識される出来事がありました。

    この間彼氏と会ったとき、「結婚してくれ」って言われたんだ。

    そ、そうなんだ……


    動揺を隠せずにはいられない新事実。
    運転の最中にも関わらず淡々とそう告げてくる彼女をよそに、私は現実を振り返りました。
    
    彼女には付き合っている彼氏がいた。それも付き合って一年も経っていて、年も七つも
    離れた大人の男性が。   
    告白したあの日から、免れない問題だとわかってはいましたが、どこか認めたくなく
    向き合おうとしていない自分がいました。

    本当に彼氏がいるのだろうか。実際に会ってもいないし、実は幻だったなんてことは
    ないだろうか。


    先輩から初めて彼氏の存在を告知された時も、彼女の口から真実を聞き出したあの瞬間も、
    分かってはいるのだけど、否定しなくてはいられない心の葛藤が苦しかったのです。
    目には見えない恋人を肯定してしまったら、彼女にとって自分は男としても人としても
    受け入れられない微弱なポジションに置かれてしまうような危惧が胸を支配していたのです。

    私は彼女に自分が必要である存在として傍にい続けるために必死でした。
    そしてせっかく出会えて好きになれたからこそ、失うことが何よりも怖かったのです。



    先輩はあれから仕事を退職し、それから彼女との関係も自然消滅するかのように、連絡を
    取らなくなり、彼女自身も気持ちに区切りをつけて前を向いていたようでしたが、
    彼氏については未知数だったのです。
    
    私の中の彼氏のイメージは、年上で男らしく彼女をぐんぐん引っ張っていく存在で、誠実と
    言うよりは、自分とは正反対の器用な人間で、仕事も遊びも女もスマートにこなす今を
    楽しんでいる色気のある人間のように描いていました。

    以前彼女から聞き出した情報の蓄積からの想像でしたが、彼女から彼氏との近状報告
    をされたことで、あの体験がフラッシュバックするかのように虚脱感が蘇ったのです。
    
    聞きたくない。でも知らずにはいられない。

    正直、彼氏の存在を無視するように努めて彼女と接してきていたのですが、
    ”自分の知らない特別な男の存在”は心の片隅にこびりついて消えていなかったのです。

    価値観の違いから彼氏と大喧嘩して、もう別れを決意していた彼女でしたが、
    それとは裏腹に喜怒哀楽すべてを気ままに表現できて、自分の人生を静観していてくれる。
    そして好きな時に会える彼女の存在は彼にとって居心地がよくてベストな関係だと思って
    いたのでしょう。「お前は空気みたいな存在だよ」と彼に言われたそうですが、その言葉に
    彼の本意が集約されていたと感じます。

    彼女は結婚は考えられないようでしたが、彼と別れるのには未だに踏みとどまっていた
    ようでした。実は彼氏は過去に浮気をしていたことがある。彼への想いは情か愛情かわから
    なくなっていると耳にした時、自分の中にあった”もう一回の告白”に王手をかけました。

    俺がこんなにも傍にいるじゃないか。
    俺ならずっと幸せにできる。


    なんとも言い難いやるせない衝動に駆られ、一人で頑張って平然を装ってきた彼女の
    横顔がいとおしくてたまらなくなりました。

    過去にも、ついこの間も似たような体験があったような気がしましたが、これ以上
    彼女と彼氏の話を聞いているのも、彼女を一人にさせておくのも男として堪りませんでした。
    
    今すぐにでも、また告白をしたい。
    あれからしばしの時間が経って、お互いを理解し合いこういう深い話が出来たからこそ
    今度こそ彼女にも自分の情熱が伝わってくれていると信じていました。
    しかし、前回の教訓も生かしその場の衝動で暴走しないためにも、自制したのです。
    

    二回目の告白。
    家に帰りながらこれまでの彼女との思い出を振り返りつつ、自分の中にある彼女への
    想いを見つめなおしていました。

    これから先どうなるかわからない。もしかしたらもう前の関係には戻れないかもしれない。
    前回と違い、冷静に自分の選択を考えられたのは、経験の賜物だったと思います。
    それほど二回目の告白の重大さを悟っていたから慎重にならざるを得なかったのです。

    あの時は、”まだわからないからこれから”があった。あれから数ヶ月が経った今、
    ようやく本当のスタートラインを切ってゴールまでラストスパートの位置に辿りついたと
    認識していた自分は、自分に出来ることはすべてし尽くした、後はそれに結果がついて
    くるだけだと覚悟を決めました。

    あとは心の趣くまま素直な気持ちを表現しただけです。
    それから三日後に電話という形でしたが、私は彼女に告白をしました。
    冷静と情熱の間という映画が数年前上映されましたが、そのタイトルのように、私は
    ストレートに伝えたつもりでした。
    俺んとここい。俺と一緒にいこう。その想いを存分に発揮しました。
    
    彼女は分かってくれているはずだ。こんなに深い仲になれたんだから。

    



    しかし、結果は自分の期待を裏切るものでした。
    彼女は電話では即答をくれず、それから一週間後、メールで想いを凝縮して私に届けてきました。

    隆の気持ちはすごいうれしい。
    こんなに想ってくれたのは生まれてはじめてです。私はすごい幸せもの。
    あれから悩んだけれど、隆とは恋人としては考えられなかった。
    彼氏とも距離を置いたけれども別れることが出来なかった。
    だからきっと隆を期待させちゃいけないと思うの。
    本当は実際に言ったほうがいいんだけど、難しくて。メールでごめんね。

    ---END---



    唖然とするしかありませんでした。
    告白をした後の一週間は、永遠のごとく夜も眠れずに携帯を常に片手にとって、
    待機する時間が全てでした。
    いつくるのか。どういう一声で声をかけてくれるのか。これからどうなるのか。

    一日も早く結果を知りたい気持ちを抑えるかのように、彼女との過去のメールの
    やり取りを何度も見直して軌跡を振り返っていました。正々堂々と立ち向かった
    自分は本当によくやった。    それなのに……!

    怒り?悲しみ?失望?
    待ちに待ったその結果がNOだったから?たった数行の無機質な返信を考えるのに一週間も
    かかったから?このマグマのように煮え滾る心の叫びを抑制することが出来ない。

    
    結局この前と同じじゃないか。結局先輩の選択は正しかった。
    真剣な想いを踏みにじるかのようにたった一通のメールで全てにケリをつけようとして、
    彼氏ともあれだけ別れる別れる言ってこの言い分か。
    これだけたくさんの男を手玉にとって、想い続けてきた自分が惨めでたまらない。
    そっちがそういう態度でくるならこっちにも考えがある!!

    堪っていた鬱憤は爆発し、そこに残ったのは彼女への激しい恨みとつらみ。
    これまで幾度と自分を宥めて抑えてきた本心が理性を制し、怒りの矛先は携帯電話へと
    注ぎ込まれていました。

    もはや時は遅かったのです。
    我を見失うほど血が上っていた自分は、彼女に破滅へのメール文を無我夢中で送っていました。
    目には目を、歯には歯をでした。全てを曝け出した今、失うものは何も残ってなかった自分は、
    覚悟のもと、全てを終わらせるピリオドを”メール”でオウム返ししたのです。

    我慢していた分、彼女に対する不満は相当なものでした。
    「煮え切らない態度をしていると人は去っていくよ」
    「これからは彼氏がいるのに他の男とは会わないでくれ」
    「思っていることは直接言わないと後々相手を傷つけることになる」


    自分は彼女のたった一人の友達に過ぎないのに、自分の満たされない願望を投影させるかのように、
    自分の苦しみを遠まわしに気づかせる内容を打っていました。
    皮肉なことに、それでもまだ自分は”いい人”を演じ続けている。もうさよならを言ってしまったのに。

    最後の言葉を送る中でも、私は彼女のこれからを勝手な老婆心で見据えつつさよならメールを
    合計三通にわたって送信しました。
    
    終わった。これで全てが終わったんだ。でもこれでよかったのだろうか。

    熱くなった頭に支配されるまま本文を送り終えた自分に残ったのは、虚しさだけ。
    感情の起伏の移り変わりには逆らいようがないのは仕方がなかったのですが、取り返しのない
    ことをしてしまった後悔の念にこの先背負わなければならないことになってしまうとはまだ
    考えられもしませんでした。

    新しい何かが始まろうとしている。
    脳裏に浮かぶその正体は漠然としていましたが、彼女との思い出を一瞬にして断ち切った
    携帯電話を片手に持ちながら、すぐに来るはずのない返信を待ちわびている自分の切り替わりの速さに
    戦慄を覚えていたのを今でも鮮明に記憶しています。

    続く
  
    
    
    
    

          

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