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9月26日 17時10分執筆
第三十二回 「大学に居場所をなくしたある青年の話〜後編〜」
N君は、大学を辞める選択を選びませんでした。
いや、むしろ選べなかったと言い換えたほうが妥当かもしれません。
苦渋の決断の末、決死の思いで両親にありのままを話したところ、返ってきた言葉は次のようなものでした。
「もう大学3年になったんだから、あと1年我慢すれば卒業じゃないか。今までの学生生活は何
だったんだ、そのくらいで苦しんでいたらこの先やっていけないぞ。それに辞めてどうするつもりなんだ」
・・・・
核心を突いたその発言にN君は何も言い返せなかったそうです。
それはやはり"学生"という学費など経済的にまだ親の全面的バックアップを受けている身で、
入学金から授業料までこの3年間費やしてきた数百万の大金を犠牲にすると思うと、自分の言っている
ことが、我儘や甘え以外の何物でもないと悟ったようです。
それに、大学を辞めた後の進路を見据えても、待っているのはフリーター生活という厳しい現実ですし、
ここでドロップアウトしたら、「大卒」という正社員採用に欠かせない必須条件を自ら手放してしまう危険性を
とくと突きつけられたのです。
N君はそれからまたいつもの場所に戻り、同級生のからかいやイジりの対象になりながらも、学校を休み
がちになることはありませんでした。おそらく一連の葛藤を乗り越えた彼は、現実と向き合う以外選択肢は
ないと諦めに近い気持ちになったのでしょう。
月日は流れ、大学四年になり就職活動も本格化しようとしている最中に、N君の携帯に着信が届きました。
「お〜いN、久しぶりだなぁ〜二年ぶりくらいか、俺のこと覚えてる?」
電話の相手は、N君が1年生の時に、"自分の求めていたものと何かが違う"という理由で入学してわずか
半年で退学した元同じ大学の同級生でした。
聞くところによると、その彼は大学を辞めたあとすぐに、民間のサービス業にフリーターとして就職し、
それから二年半かけてコツコツ働き続けた結果、現在では正社員として多忙な日々を過ごしているようでした。
そんな彼でしたが、たまたま携帯のメモリーの整理をしていたら、N君のメアド、電話番号を見て大学時代を
思い出し、辞める直前の体育祭で記念に撮った写真を見ると、思わず懐かしくなって連絡してきたそうです。
そんな彼に、以前の自分を投影したのかもしれません。気になっていたあの質問を投げかけました。
「大学を辞めて後悔していない?」
彼は即答で「全然、むしろ辞めてホントよかったよ。こうして自分のやりたいように生きてるしな(笑)」
と答えました。
電話だけだったので、一瞥して判断は出来ませんが、久しぶりに聞いた彼の声は、大学時代とはうって
変って生き生きとしていて、虚偽ではなく毎日充実している感じがダイレクトに伝わってきたそうです。
電話を終えて、N君は複雑な思いに駆られました。あの時あの瞬間、あれだけ葛藤を重ね一度はこれでいい
と思った決断だったが、果たしてそれは正解だったのだろうか。
現在なんとなく義理で大学に通っている惰性の日々とは裏腹に、勇気を出して新しい一歩を踏み出した彼が
うらやましくて仕方がなかったそうです。
後悔先たたず、というわけではありませんが、どうしようもない思いで現実世界に戻ったN君は、それからも
変化のない同じことの連続の日々を過ごしました。中学・高校時代の友人から「大学どう?俺まじ楽しいよ。」
とか「今度みんなで久しぶりに集まろうぜ。近況報告したいしさ」という連絡がちょくちょく来ましたが、全部
適当な理由をつけて断ってきたそうです。今の自分ではみんなに会わす顔がないと言っていた彼の呟きが
次の発言からもよく伝わってきました。
「隆、俺大学選び本当に失敗したよ。受験情報誌や偏差値で選ぶんじゃなかった。何度言っても仕方
がないけど。むしろ学校の問題じゃなくてさぁ、俺の性格自体が学生生活に向いてないのかもしれない。
こんな弱い俺んじゃ社会でやっていく自信ないんだわ」
それからもN君は日に日にマイナスの感情に支配され、就職活動の前に尻込んでしまうのです。
私は度重なるN君の苦しみを、ただ話を聞くことでしか受け止めることが出来ませんでした。
そんな彼に更なる試練と逆境が押し寄せてくるのです。
自業自得と淡々と話すN君ですが、過去の怠慢のツケよって単位不足よる留年が確定してしまったのです。
2006年現在、彼は大学を卒業し、就職していった多くの同級生とは別の道を歩んでいます。
大学5年生という形で今も彼はあの場所へ通っています。
しかし去年までと違うのは、彼は彼なりに自分の出来ること、小さな幸せをみつけ、日々を過ごしています。
来年卒業という形を晴れて迎えたら、N君のその後を最終編としてお伝えするつもりです。
私がN君の一連の出来事をなぜコラムに書こうと思ったかというと、N君の一部始終は、決して人事ではなく、
きっかけ一つ、出会いによってN君のような境遇に足を踏み入れる可能性がどこにでも潜んでいるのです。
このコラムを読んでの感想は千差万別だと思いますが、私は、少なくともN君の大学に少しでもよき理解者が
いたら、また違う展開を迎えていたと強く思っています。
私は確かにN君ではないし、人の回顧録をなぜ自分が書く必要があるのかと言われたら、納得のいく答えは
出来ないかもしれませんが、ケースは違えど自分自身がN君と同じような道を歩いているからだと思います。
先述しましたが、一応今回がラストではないので、また次回私の総括を含めて書くつもりです。もちろん毎回話
を聞いてきた私にとっても、他人事ではなく、考えさせられることが多々ありました。N君、そして私も含めて
"後悔のない人生を送って欲しい"という願いを込めて次回また続きのコラムを執筆します。
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