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第三十一回 「大学に居場所をなくしたある青年の話〜中編〜」 5月20日 23時30分執筆
その後、大学三年になったN君は、大学を休むようになりました。
はじめは講義に出席しないことで出席率も悪くなるしテストにも響くので、躊躇っていましたが、
最初の一回を乗り越えたその瞬間、心の中に幽かな希望が芽生えてきたそうです。
「あと一回くらいなら休んでも平気だろうな、まだ一回だし。」
はじめて休むことへの不安が「たった一回の軽い行為」と自分に納得させ、
二回休むと、休むことへの罪悪感が確かな安らぎへと変わり、
三回、四回目を超えると自分の中にあったサボリへの認識は、自分が唯一言葉を用いずとも素直な心情を
表現できるもの、学校への抵抗意識へと変革して行きました。
しかし、最初は現実から逃れられ、独りでいられる開放感に安堵を覚えていたN君ですが、
内心自分自身も、学校から逃避することは根本的に何の解決にもならない虚しさに気づいていたのです。
休めば休むほど、大学から遠ざかっていって取り残されていくどうしようもない孤独感。
現実に舞い戻る恐怖感は募っていく一方、そんなN君に追い討ちをかけるかのように彼らは振り回すのです。
「N君最近学校来てないけど調子悪いの?みんな心配してるよ〜、早く戻っておいでよ」
「お〜いN〜、さっきからずっと電話してるのになんで出てくんねんだよ〜」
「俺たちがついてんじゃん、早く体調よくなれよ〜」
N君の苦しみをよそに、たとえ独りでいる時さえも、彼らは追い続けました。
度重なるメール、電話の着信音に、N君の正常な心は限界へと近づいていました。
クラスメイトから同情の言葉が届く度に、N君は見えない圧力に押しつぶされていきました。
一見、心配してくれる人間が傍にたくさんいるんだから、全然悩む必要なんてないと感じるかもしれません。
N君はその時、彼らの行動や人柄について私に言及はしませんでした。
私も最初は「友達いないって言ってる割にはこんなにたくさんの人間がメール、電話してくれてんじゃん。
なのにどうしてそこまで孤独を抱え込む必要があるんだろう」と疑念を抱いていました。
その答えは後になってわかりました。
N君が私によく投げかけてくるその一言に全てが凝縮されているのでした。
「俺、大学の友達誰もいないみたい」
N君が度々私に囁きかけてくれたこの言葉が、彼の人生の中でどれほどのウエイトを占めているか、
彼の話を聞くたびに考えざるを得ません。
結論から言うとN君はその後また大学へ戻りました。
端的な理由はわかりませんが、きっとあの時のクラスメイトからの連絡が大きく影響していたはずです。
N君の中でまだ人を信じる心は消えてなかったのです。
しかしそこに待っていたのはもうひとつの現実。
あれだけN君のことを気にしてくれた友人たちもN君が学校に戻れば何事もなかったかのように
各々のキャンパスライフに没頭し、久しぶりに目にするN君の姿を見ても見て素通りする者が多々。
ようやくN君に気づいたある者は、N君の顔を見るなり蔑んだ眼差しでこう言いました。
N君、戻ってきたんだ。で、結局ズル休みだったんでしょ?みんなそう言ってたよ。
N君学校が嫌いだから独りで家に引き篭もってたんだって(笑)
俺も休みて〜よ。でも休んじまったら留年になっちまうかもしれねぇ〜しな〜。
もし自分が何らかの事情で学校ないし会社の生活が嫌になり、しばしの休息を経て復帰した時、
そこにはまるで自分がいてもいなくても同じかのような待遇が待ってた上、友達、同僚から軽蔑の
目で攻撃されたらどういう心境になるかは安易に想像できると思います。
N君が話してくれた事の顛末を聞き終えた後、N君がいかに周りの人間に振り回されて、
自分らしさを見失い、厭世観を強く抱くようになったのもいたしかたないと思いませんか。
大学という場で活動する人間、そしてそんな彼らを客観的に観察しているN君。
「自分のいるべき場所はここではない、大分前からわかってた」
その時の心境をN君は次のように私に述べています。
どうせ自分の心の苦しみをわかってくれる人なんて誰もいないんだ。
でも心の中のどこかでまだ信じている自分がここにいる。
出来ることなら大学生活もう一度はじめからやり直りたい。
でも何度考えても現実は変わらないし、不可能なことはわかっている。
だとしたら自分が今できることはこれしかない。
N君はこの時、いつかはちきれそうになっていたある問題にようやく答えが出たそうです。
そしてある晩、意を決してその想いを両親に話し出し始めました。
「俺、本気で大学やめたいと思ってる」
後編に続く