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第三十回 「大学に居場所をなくしたある青年の話」 5月14日 22時30分執筆
※ いつもは恋愛中心のコラムですが、執筆30回を超えたということで、特別に身近で起こった体験談をコラムにしました。
隆、俺もう生きてる価値ないわ。
1年前、高校時代の友人のN君が私にこう語りかけました。
俺もう死んだほうがいいかもしれない。
そう言い終えたN君の顔からは涙ひとつこぼれていませんでした。
ただ悲壮感に包まれて、ある一点を虚ろな目で見つめ続けていたN君の横顔を今でも覚えています。
N君は私の高校時代の友人です。
高校時代、N君はクラスのムードメイカーで、文化祭や体育祭に一丸となって活躍した明るいやつでした。
4年前に高校を卒業してそのまま大学に進学。介護の仕事に就くのが夢だったので、福祉大学に
進んだものの、そこに待っていた現実は、理想に描いていた大学生活とは全く異なったものでした。
N、お前鬱病じゃないの?いつも暗いオーラが漂ってるよ。
入学して1年が経ち、元気のないN君に対して同じクラスメイトの人間が真顔で言ったそうです。
もちろんN君は鬱病なわけもなく、ただ大学の人間関係や環境に疲れ切っていただけだったのです。
N君は大学に友達と思える存在が一人もいませんでした。
N君は大学にいる時は常に孤独を抱えていました。独り取り残されたN君は、昼食も誰もいない
図書館で、皆から隠れるように食べていたそうです。
大学に入学して一週間が経過した頃から「なにかが違う」と気づいたそうです。
やる気のないクラスメイト。仕事はマニュアル通りに従うものと割り切った担任。どこか冷めている教授。
学生=金と認識し、積立金やイベント代と託けて何かと学生たちから金銭を搾取する経営陣。
N君は入学して一ヶ月も経たないうちに、大学の選択ミスを痛感したのでした。
N君はとっても心やさしい思い遣りがある青年です。
ボランティア経験も多く、お年寄りと接することを何よりも楽しみにしていました。
一緒に車でドライブしている時も、走行中左脇から左折しようと待機している車を見るなり、
「隆ちょっと待って、あの車入れてあげて」とささやいてくるのです。
道端にゆっくりと歩いているお年寄りを目にするなり「おばあちゃん、車に気をつけるんだよ〜」
とやさしくつぶやいていました。N君のボランティア先の老人とのやり取りを聞いていても、彼らが
かわいくて、傍にいたくて仕方がない様子がひしひしと伝わってきました。
普通ならほとんどの人間が見て見ぬふりをするものなのに、N君と話していると自分の中に
失いかけている温かい気持ちを思い出させてもらうのです。
私から見ても、彼は介護の仕事にすごく向いていると思っています。
でも、そんなN君のような人間だからこそ、現代の福祉の現場で生き抜いていくのは難しそうでした。
N君の数々のボランティアの現場の話を聞くと、共通して現在の福祉の職場の空気は殺伐としていて、
人と人とが絶えず攻撃し合っているように感じられて止みませんでした。
福祉の職員は、圧倒的に女性が多いので、院長の方針や派閥についていけない人間は、必然的
に追い出されてしまう雰囲気があるそうです。勿論全ての職場がそうであるわけではないでしょうが、
N君の体験したのと同じような施設が全国の何処かに存在しているのは事実です。
そんな人のいいN君ですから、学校に行ってもボランティア先に行っても決まってずる賢い人間
に利用されてしまうのは欠かせませんでした。
N、ちょっと今日金忘れちゃってさぁ、パチンコ代貸してくんねぇ?5000円でいいからさぁ。
N君、うちの施設が今人手が足りないから君には8人の介護を担当してもらいます。
N君〜、もうすぐあの授業のテストじゃん。俺ノート一度も取ってないから、今回だけ見せてくれよ〜。
容赦なく浴びせられるN君への罵声。
N、おめぇ最近付き合い悪くねぇ?友達いなくなるよ。
N君、君はボランティア生なんだからこちら側の言う通りに動きなさい。自分の勝手な判断は慎むこと。
N君と一緒にいると他の人から変な目で見られるから話したくない。
N君本当は寂しいんでしょ?クスクス。
お前いつも暗くてなに考えてるかわからねぇよ。
心無い一言に傷つき、傍観者の利己主義に振り回され、日に日にN君の目には高校時代にあった
あの輝きが失われていきました。日に日に自分らしさを見失い、いるべき居場所をなくしていくのです。
本当はいつもこのまま消えてしまえばどんなに楽かって考えてる。
やり直せるならもう一度人生やり直したいよ……
幾度となく聞き続けたN君の心の叫びは、まだまだ終わりはしませんでした。
中編に続く